ー であうにあうMOVIE「カケル」での、駆け出しの漫画家と作画家がぶつかり合って新しいものを生み出すというストーリーは、どのように生まれたのでしょうか。

ブランドメッセージの「であうにあう」という言葉には、〈niko and ...〉のショップを訪れたお客さんが、個性の強いアイテムを前に最初は驚くことがあっても、だんだんとその魅力に惹かれ、その人の世界が素敵に広がっていく…。そんな思いが込められていると聞きました。そういう「気づき」の積み重ねで、新しいものや人と繋がって自分の世界が広がっていくのは素直に素敵だなと思えました。

そのコンセプトを人のであいに置き換えてムービーを作って欲しいとのことだったので、私はこのコンセプトに真っ直ぐに乗ろうと、いろんなことをシンプルに考えてみました。あのふたりを真っ直ぐに撮ろうとしたらぶつかり合う関係になったし、「であって」から「にあう」までの時間軸も、2人のキャラクターも狙い通り、実に真っ直ぐになりました。

“描ける・書ける・駆ける・掛ける”、といろんな意味が含まれた「カケル」というタイトルは、クリエイティブディレクターの野澤幸司さんが考えてくださったのですが、とても素敵で気に入っています。

ー 「カケル」は、ショートムービーとは思えないほどの展開で、惹き込まれました。ショートだからこそ、できたことについて教えてください。

スピード感は重視していましたね。広告動画は飛ばされてしまうことが多いので、そのスキがないように、最小限の情報を登場人物のセリフや表情にバラして組み込んでいくようなやり方をしました。話の都合上、リアルじゃない部分も大いにありますが、ある意味おとぎ話のようなストーリーで、こういうものはショートムービーじゃないとできないなと思っています。このおとぎ話に真摯に向き合って、感情の変化をていねいかつ簡潔に体現しリアリティを与えてくれた菅田さんと小松さんは本当にすごいです。

ー (小松菜奈さん演じる)春野の部屋も、(菅田将暉さん演じる)高木が作業をしている屋上も素敵でした。空間作りはどのように行ったのでしょう?

小松さんの部屋は密度の高い空気感が欲しいと思い、逆に菅田さんの作業スペースは抜けの良いところにしたかったです。ちなみに菅田さんは別にあそこに住んでいるわけではありません。階下のマンションの部屋に住んでおります。とはいえ、その違和感をあまり感じないようにするにはどういう美術の配置がいいのだろうというのはいろいろ考えあぐねましたね。結局、説明的なものは余計だなという結論に至り、感覚的に置くことにしました。

ー ストーリー中に出てくる黒田硫黄さんの漫画は、いかがでしたか。最初に漫画を見たときの感想を教えてください。

もともと私が黒田さんの大ファンで、ダメ元でお願いしたところ、OKをいただいたんです。まさに天にも昇る心地でしたね。ショートムービーの尺も、撮影までの準備期間も短かったので、はじめは漫画の中身に触れることなく進むストーリーにしていたのですが、黒田さんに描いていただくキャラクター原案などを考えていたら、なんとなく流れでアニメーションパートのストーリーも書くことになりました。

ー 菅田将暉さん、小松菜奈さんとお仕事をして監督が感じたことを教えてください。ご本人とはどんなコミュニケーションを取られたのでしょうか。

ふたりには撮影の数日前に時間を作ってもらい、各々と話しました。菅田さんは少しエキセントリックな役どころだったので、その人物像、感情の経緯についての議論になりましたね。疑問がある部分についてはとことん掘り下げる方で、私も自分の奥底の演出の思いを言葉に変換するのにかなり苦労しました。撮影当日の朝、「あの後、コンテを読み返して監督が言っていることが全部わかりました」と言って完璧な「高木」を演じてくれたので、めちゃくちゃカッコイイな! と思いました。

小松さんは私の話を聞きながら「ふんふん」と穏やかに吸収してていねいに積み重ねていく感じでしたね。安心して撮影できるのですが、いきなりギアが入る時があるんですね。その時の集中力というか求心力がすごくて、モニターを観ながら息を止めてしまって息苦しくなることが何度もありました。

カフェのふたりのシーンは流石の阿吽の呼吸といいますか、セリフはここからここまでね、と決めて撮影を始めても、ふたりで先のセリフまでどんどんいっちゃうんですよ、それがすごくすごく良くてその先を観たくなってしまい、カットをかけられないことも何度もありました。いま振り返っても本当に楽しい撮影でした。ずっと撮り続けていたかったです。

ー 最後に、もしもあのストーリーに続きがあるとしたら何を描きますか。ふたりは今後もタッグを組んで作品を発表していくのでしょうか。

今後ふたりはタッグは組まないです。できあがった漫画も、雑誌に載るかどうか怪しいですね。だって勝手にやっちゃってますからね、編集者を差し置いて…。

ー そうなんですか! 一度切りの組み合わせ、作品と思うとそれもまた刹那さが高まりますね。ありがとうございました。

PROFILE
伊藤由美子

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、1995年東北新社入社し2010年からフリーの映像ディレクターとして活動中。大塚製薬ポカリスエットシリーズを始め、日本コカ・コーラのからだ巡茶、ユニクロなど様々なヒット作を手がけ、2006年には綾瀬はるか主演のショートフィルム「たべるきしない」が劇場公開されるなど、多岐に渡って演出を手掛ける。
「カケル」メイキングも見れる
2018Autumn&Winter 特設サイトはこちら

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